AIキャリアコーチは人を代替するのか|Human-in-the-Loop型キャリア支援研究の論文解説

AIキャリアコーチは、人間のキャリア支援者を置き換えるものなのでしょうか。それとも、対話や情報整理を支援し、人間がより重要な判断に集中するための仕組みなのでしょうか。
桜星彩株式会社の代表であるXiahan (Dilapsky) LIとMiwa Omoriによる論文「Designing an Agentic Artificial Intelligence Career Coach: A Human-in-the-Loop Framework for Personalized Career Guidance」が、2026年7月にAPCDA Conference Proceedingsへ掲載されました。本記事では、この論文が提案したAIキャリアコーチの設計、探索的なパイロット結果、研究上の限界、そして現在のAIロールプレイ型人材育成とのつながりを解説します。
学会発表と論文掲載の概要については、APCDA Conference 2026でのAIキャリアコーチ研究発表もご覧ください。
研究が問いかけたのは「AIか人間か」ではなく、どう協働するか
AIをキャリア支援やコーチングに導入するとき、議論は「AIが人間を代替できるか」という二者択一になりがちです。しかし、本研究が重視したのは、AIと人間のどちらか一方を選ぶことではありません。
AIは、繰り返し行われる質問、会話内容の整理、初期的なパターン抽出、レポート作成を支援できます。一方、人間のキャリア支援者には、相談者との関係構築、曖昧な発言の解釈、心理的な複雑さへの対応、倫理的判断が求められます。この役割分担を前提に、AIの出力を人間が確認し、必要に応じて修正・補足する考え方がHuman-in-the-Loopです。
AIに最終判断を委ねるのではなく、AIが対話と初期分析を支え、人間が文脈、関係性、倫理を含む判断を担う。
論文で提案したAIキャリアコーチの設計
本研究では、AIキャリアコーチを単なる自由会話型チャットボットとして設計していません。対話を行うための5つの設計要素と、対話後の分析を行う5つのプロセスを組み合わせています。
| 段階 | 主な設計要素 | 目的 |
|---|---|---|
| 対話設計 | 複数のキャリア案、信頼形成、例示質問、曖昧な回答への対応、評価指標 | 相談者の背景や不確実性に合わせて、内省を促す対話を行う |
| 分析設計 | 役割移行、背景情報、初期評価、懸念と矛盾、人による確認事項 | 会話を構造化し、人間の支援者が次に確認すべき点を明確にする |
1. 一つの正解ではなく、複数のキャリア案を考える
対話では、相談者に一つの標準的な進路を選ばせるのではなく、会社で働く、起業する、家族との生活を重視するなど、複数の人生・キャリアの可能性を考えるよう促します。目的は、AIが答えを決めることではなく、相談者が自分の価値観や優先順位を比較できるようにすることです。
2. 曖昧な回答を、そのまま失敗と見なさない
キャリア相談では、「分からない」「特にない」「何でもよい」という回答が珍しくありません。本研究では、こうした回答を意欲不足と決めつけず、二つの選択肢を比較する質問や、具体的な場面を想像する質問を使い、本人の選好を少しずつ言語化する設計を採用しました。
3. 対話後に、人が使える構造化レポートを生成する
対話が終わると、AIは相談者の基本情報、頻出キーワード、行動傾向、懸念、発言間の矛盾を整理します。さらに、情報が不足している点や解釈が曖昧な点をHuman Confirmation Itemsとして提示し、人間のキャリア支援者による確認につなげます。
この仕組みの重要な点は、AIがもっともらしい結論を出して終了するのではなく、「どこまで分かり、どこから人が確認すべきか」を明示することにあります。
Agentic AIとは、最終判断を自動化することではない
論文タイトルには「Agentic Artificial Intelligence」という言葉が含まれています。本研究におけるAgentic AIは、AIチャットボットが相談者、人間のキャリア支援者、学校または企業の間で一つのエージェントとして機能し、定められた条件に従って対話から分析レポート生成へ役割を移す設計を指します。
したがって、本人の進路や採用、人事評価をAIが自律的に決定するという意味ではありません。AIの自律性を広げるほど、人間による確認、説明可能性、誤りへの対応を同時に設計する必要があります。
日本の大学で実施した探索的パイロット
立命館アジア太平洋大学では、5名の学生を対象に探索的なパイロットを実施しました。学生は最初にCareer Adapt-Abilities Scaleへ回答し、Google Geminiを用いたAIキャリアコーチと10ラウンドの対話を行い、最終レポートを受け取った後、同じ尺度へ再度回答しました。
Career Adapt-Abilities Scaleは、キャリア上の変化や課題に対応するための心理社会的資源を、Concern、Control、Curiosity、Confidenceの4領域で捉える24項目の尺度です。
| 項目 | 変化 | 研究上の解釈 |
|---|---|---|
| 目標達成の計画を立てる | 3.14から4.60へ上昇(46.5%) | より具体的で実行可能な計画につながった可能性 |
| 異なる方法を観察する | 4.29から4.60へ上昇(7.3%) | 探索や好奇心に関する変化の可能性 |
| 問いを深く考える/問題を解決する | 各4.14から4.60へ上昇(11.0%) | キャリア課題への対応に関する自己認識の変化の可能性 |
| 自分のキャリアを気にかける | 3.57から3.20へ低下(10.4%) | 低下の意味は明確ではなく、追加研究が必要 |
長野大学で行った類似セッションの主観的フィードバックでは、これまで言葉にしにくかったキャリア観を表現できたこと、自分では気づいていなかったキーワードや特徴を発見できたこと、AIには比較的気軽に話しやすかったことが報告されました。
この研究結果から言えること、まだ言えないこと
本研究は、AIキャリアコーチとの対話が、学生の計画、自己探索、内省を支援する可能性を示しました。一方で、立命館アジア太平洋大学での対象者は5名であり、研究は探索的なパイロットです。
- 言えること:提案した対話・分析フレームワークを実際に運用できたこと、一部の尺度項目と質的フィードバックに前向きな変化が見られたこと。
- まだ言えないこと:AIキャリアコーチが一般的にキャリア適応力を向上させること、長期的な行動変容や就職成果を生むこと、人間の支援者より優れていること。
また、尺度の一部では意味が明確でない変化もありました。今後は対象者数を増やし、比較条件、継続利用、長期的な行動や成果を含む検証が必要です。
AIキャリアコーチ研究からAIロールプレイ型人材育成へ
本研究の対象は学生向けキャリア支援であり、現在のAI営業ロープレ研修の効果を直接検証したものではありません。ただし、研究で構築した設計原則は、現在の製品開発にもつながっています。
| AIキャリアコーチ研究 | AIロールプレイ型人材育成への展開 |
|---|---|
| 相談者の背景や不確実性に応じた個別化対話 | 異なる顧客ペルソナ、難易度、業界、会話場面に応じた練習 |
| 曖昧な回答を深掘りする質問設計 | 表面的な顧客要望だけでなく、背景や判断条件を聞き出す練習 |
| 対話後の構造化された分析レポート | 会話記録、文字起こし、評価、改善提案を用いた振り返り |
| Human Confirmation Items | AI評価を最終判断にせず、本人、管理者、研修担当者が確認する運用 |
| 将来のcompetency modelとの連携 | 会話から能力を整理し、練習課題と長期的な成長支援につなげる構想 |
現在開発しているAI営業ロープレ研修サービスでは、AI顧客との音声対話、会話記録、分析、改善提案を組み合わせています。AIが人間のマネージャーや研修担当者を置き換えるのではなく、反復練習と会話証拠の整理を支援し、人間が実際の業務文脈を踏まえて指導することが基本方針です。
将来は、対話から能力と成長課題を可視化する
論文では、今後の研究方向としてontologyとcompetency modelの統合を挙げています。職業、役割、キャリア経路を構造的に表現し、個人の能力と組織が求める要件を結びつけることができれば、AIとの対話は一回限りのアドバイスから、継続的な人材育成へ発展する可能性があります。
桜星彩株式会社が目指しているのも、AIに点数を付けさせること自体ではありません。対話の中に現れた行動と証拠を整理し、本人が次に練習する課題を理解し、人間の支援者や組織が長期的な成長を支えられる仕組みをつくることです。
まとめ
今回の論文は、AIキャリアコーチを、人間のキャリア支援者を代替する自動判断システムではなく、個別化された対話、反復的な情報整理、構造化された初期分析を担う協働エージェントとして設計しました。
小規模なパイロットでは、キャリア計画、自己探索、問題解決に関する一部の項目と、言語化、自己発見、話しやすさに前向きな知見が得られました。ただし、結果は予備的であり、一般化や長期効果の主張には追加検証が必要です。
この研究から現在のAIロールプレイ型人材育成へ受け継がれているのは、AIを最終判断者にしないこと、対話を証拠として残すこと、個人差に応じて練習を変えること、そして人間による確認と支援を設計の中心に置くことです。
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対話、記録、分析を組み合わせたAIロールプレイ型トレーニング
桜星彩株式会社では、AI顧客との音声対話、会話記録、文字起こし、フィードバックを通じて、反復練習と人間による指導をつなぐAI営業ロープレ研修サービスを開発・提供しています。
執筆・監修
Xiahan (Dilapsky) LI|桜星彩株式会社 代表
本論文の筆頭著者。AI技術をキャリア支援、人材育成、営業トレーニングへ応用する研究・製品開発に取り組んでいます。桜星彩株式会社では、AIとの対話、会話分析、人間による確認を組み合わせた人材育成サービスを開発しています。
関連記事
参考にした情報
LI, X. (Dilapsky), & Omori, M. (2026). Designing an Agentic Artificial Intelligence Career Coach: A Human-in-the-Loop Framework for Personalized Career Guidance. APCDA Conference Proceedings, 3(1), 27–32. https://asiapacificcda.org/wp-content/uploads/2026/07/cp0003_09.pdf
Asia Pacific Career Development Association. (2026). APCDA Conference Proceedings, Vol. 3, No. 1. https://asiapacificcda.org/apcda-cpvol3-1/
Barger, A. S. (2025). Artificial intelligence vs. human coaches: Examining the development of working alliance in a single session. Frontiers in Psychology, 15, 1364054. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1364054
Savickas, M. L., & Porfeli, E. J. (2012). Career Adapt-Abilities Scale: Construction, reliability, and measurement equivalence across 13 countries. Journal of Vocational Behavior, 80(3), 661–673. https://doi.org/10.1016/j.jvb.2012.01.011
Saxena, M. P. K., & Ganuthula, V. R. R. (2026). Artificial intelligence and human-in-loop: A complementary approach to workplace coaching. Development and Learning in Organizations: An International Journal, 40(2), 31–33. https://doi.org/10.1108/DLO-07-2025-0268
Bozer, G., & Kotte, S. (2026). AI in the coach’s chair: How professional coaches navigate identity and role ambiguity in response to AI adoption by their coaching firm. Behavioral Sciences, 16(2), 211. https://doi.org/10.3390/bs16020211


